「修繕計画」の基礎知識 6 (最終回)

「修繕計画」の基礎知識 6 (最終回)

2017/02/17

今日は「修繕計画」の基礎知識6として「長期修繕計画見直しのポイント」について
説明します。
今日が金曜日ということでできれば、最後まで行きたいと思ってます。
ということで、少し長くなるかもしれませんが、お付き合いください。
 
1)長期修繕計画の基本事項

計画期間

 ◆建築に関する大規模修繕工事が2回分含まれているか。

  これは外壁や屋上防水等の建築に関する大規模修繕は多額の費用を要するため、

  修繕積立金は2回目の大規模修繕を視野に入れて計画する必要がある。

  20年目以降は建築の工事だけではなく設備の工事も加わるため、一定期間におけ

  工事費の負担額がそれまでに比べて更に大きくなってくるため、25年以上の計画期間

  が必要となり、長期修繕計画の見直しを行う場合の計画期間は最低でも25年、 新築

  においては30年とする。

修繕対象項目

 ◆修繕対象項目は「修繕計画」の基礎知識4で示した項目を参照。

  経年に伴い劣化が進行するということだけではなく、最新のマンションに比べて性能や

  機能が劣るといういわゆる社会的劣化が進行していく。

  区分所有者の高齢化に伴うニーズの変化も重要な見直し項目となるため、大規模修繕

  に際して、マンションのグレードアップが求められる。

修繕周期

 ◆年代を経た古い材料・工法による修繕周期と更新される最新の材料、工法による耐用

  年数・修繕周期の違いが反映されているか。

  例えば、給水管の炭素鋼鋼管 20年 ⇒ 硬質塩ビライニング管 30年

修繕積立金との関連

 ◆長期修繕計画には計画期間において各年度に必要になる各修繕工事費とその合計

  金額及び累計額が示されているが、原則として、計画期間の最終年度における修繕

  工事費の累計額を賄えるように算定する。

  また、計画期間内に修繕積立金が不足する場合には、修繕積立金の引上げ若しくは

  一時金の徴収や金融機関からの借入れで不足分が賄えるかについて検討する必要

  がある。

2)修繕積立金の算出根拠としての有効性

工事費や工事数量の算出根拠

 これまでの実績に基づき平均的な修繕対象項目ごとの戸当り工事費に基づき算出

 される場合が多く、工事費の算出根拠が必ずしも明確でないものが多く、修繕積立金

 を引上げようとしても、区分所有者の理解が得にくい場合があるので、算出根拠を明確

 に示すことが重要となる。

マンションの特徴が長期修繕計画に適切に反映されているか。

 ◆マンションの形態や仕様の反映

   例えば、同一戸数の場合でも、箱型のものと斜面型もの

 ◆仕様の違いによる修繕費の違い

   例えば、材料や仕上げの仕様、設備システム、設備材料等による修繕対象項目や

   面積、修繕単価の違いが反映されているか

 ◆規模やグレードの反映

   例えば、小規模か大規模か、単棟型か団地型か、住宅専用か複合用途型か、ファ

   ミリータイプかワンルームタイプか、あるいは超高層か、などの特徴が反映されて

   いるか

   一般的に小規模マンションは戸当り工事費は割高になる傾向がある。

 ◆条件設定の的確性

   修繕積立金の設定にあたっては、駐車場使用料等の繰入額、積立金運用利息、 

   物価上昇率、借入金返済額、予備費等の設定に関して、それが長期修繕計画に 

   反映されていること。

3)長期修繕計画の見直し

  概ね5年毎の見直し 

  計画期間は見直し時点から25年間(新築時は30年間)とする。

4)経年別の見直しポイント

  ①新築時から第1回大規模修繕前まで 

   ◆分譲会社が作成し、購入予定者に示されたものが多い。 

    補修方法、数量等の計算が明らかでない場合が多く、計画期間、修繕対象項目

    など全般を見直す必要がある。

    大規模修繕がまだ相当先の場合は計画の精度は概算でよいが、数年後に

    近づいている場合は「建物診断を行ったうえで、積算法による工事費の把握が

    必要となる。

    修繕積立金及び修繕積立金基金について、分譲時に低額に抑えられている場合

    には適正な額に見直す必要がある。

  第1回大規模修繕後の長期修繕計画

   大規模修繕が終了した後なるべく早い時点で、次回以降の大規模修繕計画を

   視野に入れ 既存の長期修繕計画を見直す。

  ③第2回目の大規模修繕前の長期修繕計画

   第2回目の大規模修繕工事に備えて、長期修繕計画を見直す。 

   数年後に近づいている場合は、劣化状況の診断を行ってから長期修繕計画を

   作成する。 

   第2回目の大規模修繕工事は築後20数年を経過する時期となるため、第1回目の

   大規模修繕と異なる修繕項目も発生する。

   また、設備の修繕も発生するため、給水設備、排水設備などのついても精度をあげて、

   検討する必要がある。

  ④第2回目の大規模修繕後の長期修繕計画

   第2回目の大規模修繕が終了した後に見直す。 

   当然、大規模修繕の結果を反映して見直しを行い、グレードアップについては

   本格的に検討する時期であり、建具、金物、電気設備、エレベーター設備まで

   範囲を広げての検討が必要になる。修繕費用が最も掛かる時期を迎えるため、

   修繕積立金の引上げにいても検討が必要になる。

  第3回目の大規模修繕前の長期修繕計画

   第3回目の大規模修繕の実施は築後30~40年が経過しているため、グレード

   アップについての現実的な検討が必要になる。また、設備関連の診断が重要になり、

   診断結果を踏まえた計画が必要になる。

  ⑥第3回目の大規模修繕後の長期修繕計画

   将来の建替えについても視野に入れ、建替えやグレードアップを考慮した修繕

   工事費 の費用対効果の検討が必要になる。   

   標準管理規約第28条第2項にあるように、建替えに係る計画または設備等の

   経費について、修繕積立金から取り崩すことが可能であり、長期修繕計画の

   支出項目として検討することも考えられる。

 

以上、「修繕計画」の基礎知識ということで全6回にわたって説明させていただきました。

工事をいつ実施するのか、費用はどのくらい必要かという「目安」だということ。

劣化の状態によっては、必ずしも計画通り行う必要はなく「建物調査・診断」を行い、

その結果によっては計画の先送りあるいは前倒しとなる場合があります。

よく、大規模修繕工事を実施する際、建物調査・診断の実施から工事の設計監理や

施工までを設計事務所や大規模修繕コンサルタントなどに委託する議案が総会で決議

されるケースがありますが、これはすでに工事を行うということが前提となっており、

極端なことを言えば、「建物調査・診断なんかいらない」ということです。

どこをどう直すかは設計段階で協議されればいいことになってしまいます。

では、そのような組合は何を根拠に工事を行おうとしているのか、範囲は?予算は?

すべて長期修繕計画のとおりということになってしまいます。

計画を実行する前に必ず工事の必要性を診断・調査によって確認したうえで、次の

ステップへ進むという手順が必要ということ。

また、ここで述べてきたように、計画の見直しについても同様に劣化状況の確認が

必要であり、ここでも調査・診断を伴わない計画の見直しはただ「年度」をずらすだけの

作業でありなんの意味も持たないものになってしまうということです。

最後に住んでいる方の動線は「朝、自宅の玄関をでて、エレベーターでエントランスへ、

帰りはその逆をたどるだけ」で建物を見る機会はほとんどないはずです。

たまには管理組合の役員さんだけも建物の外観を確認してみてはいかがでしょうか?

みなさんの大事な資産なんですから・・・・

これで、「修繕計画」の基礎知識は終了いたします。

 

「修繕計画」の作成、大規模修繕工事の設計・監理のご用命は

NPO法人ECO-ECO建物再生推進協会事務局(045-341-0161 ask@ecoeco-consul.jp)まで